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彼はプレイボーイ(解決編)



 紗清の言葉を聞くと、希扇は身を乗り出した。生徒会長は名探偵の考えを聞くのが好きなのである。
「彼が嘘つきか。どうしてそう思う、ドクター?」
 希扇が紗清のことを時々こう呼ぶのは、名字が『はかせ』だからだ。「閣下」と呼ばれるお返しでもある。紗清は本のページをめくりながら口を開いた。
「夕美子さんの話では、車は切り返すことなく校門を出ていったんでしたね?」
「ええ、そうよ」夕美子はうなずく。
「ということは、車は旧校舎に背を向けるようにして、つまりバックで駐車してあったということです。白線は旧校舎に対して垂直に引かれていますからね」
「そうだったが、それでなぜ嘘つきと分かる?」
 希扇が首を傾げる。紗清はページをめくり、話を続けた。
「校舎の周りには花を植えたプランターが並べてあります。それは当然、彼の車の後ろにも。彼が自分で言ったように花を好いているとしたら、前進駐車するはずですよ。バックだと植物に悪影響である排気ガスがかかってしまいますから」
 一通り説明すると、紗清はページをめくっていた手をカップに伸ばした。
「なるほど、それは嘘つきだな。さすがは名探偵だ」希扇は湯飲みを掴んで一気にお茶を飲み干した。「紗清の話も聞けたし、自分は生徒会室に戻るとする。夕美子さん、今日もいいお茶でした。では失礼、ごきげんよう」
 希扇は一礼すると“探偵事務所”を出ていった。


 夕美子は窓際に姿勢良く立ったまま、黙々と本を読んでいる紗清を眺めている。彼女の読書姿はいやに様になるのだ。
「そういえば」紗清の唇がふいに動いた。「ハンサムな方が来たと噂になっていたようですが、夕美子さんは見に行こうと思わなかったんですか?」
 質問をしているくせにこちらを見ない。夕美子は答えようとしたが、紗清は話をやめなかった。
「あ、分かりました。夕美子さんはいつも彼のように下級生に取り巻かれていますからね。わざわざ賑やかな場所には出向かないということですか。夕美子さんは何よりも静けさを愛していますし」
「うるさいとかそういうことじゃないのよ」
 軽くため息をついてから、夕美子は訂正した。
「ああいう人たちって、彼とお知り合いになってあわよくば交際してもらおうって考えでしょう? なら、あたしは行く必要なんてないわ。あなたがいるもの」
 紗清のまっすぐに切り揃えられた毛先が揺れる。
「確かに」
 そう言って紗清は本を閉じた。
2009.6.11
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あとがき
 百合メインじゃない&百合小説として読んじゃいけないとは言いましたが、百合がないわけじゃないんですよ。このシリーズの雰囲気がなんとなく掴めたでしょうか?
 学園一厳格と言われる夕美子ですが、紗清には諦めの境地で甘いです。それにしても、ヒントがうまく出せない……。
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