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ぴったり彼女



 あたしの彼女は“ジャストフィット”が好きだ。
 ジグソーパズルをやればピースが合う度にうっとりする。あたしがピースをパチッとやってしてしまうと泣きそうな顔になるので、手は出さず指摘するにとどめている。最近はそれもめんどくさくなって、パズルのお誘いは丁重にお断りすることにした。
 本屋でかけてもらったブックカバーの大きさが少しでも違うと、眉間にしわを寄せて文句を言いながら真剣に折り直す。折っていない状態の紙をもらおうという発想はない。ぴったりでさえあれば、折り目がいくつあっても気にしないのだ。あたしは気になる。
 スーパーに並んだカレーの箱をきれいに整頓し始めたりすると長い。箱だと他の商品よりジャストフィットしやすいからだろう。棚からあぶれた分はお買い上げしてしまう阿呆で、お母さんに毎度怒られているらしい。
 几帳面かというとそうでもなくて、筆箱に入っているペンの向きがバラバラだったりする。あたしにはこっちの方が許せないが。
 取り分け、自分の体がジャストフィットするのが好きで、曰く――
「ぴったりすると気持ちがいいの。特に包まれてる感がたまらなく好き」
 確かに。
 時々、壁とベッドの隙間に挟まっている。発見した時ビビるからやめてほしい。しかも自力で抜け出せないことが多々あって、あたしが力仕事を引き受けることになるのだ。
 手が空いていれば、必ずと言っていいほど両手の指を組んでいた。あたしと付き合い始めてからはガッシリ恋人つなぎ。近くにいられない時は、やっぱり一人でお祈りのポーズをしている。
 文化祭ではなぜかライオンの全身タイツを着て、なぜかみんなに好評だった。あたしはといえば、彼女が喜び勇んで着込んだことにドン引きしていた。何で彼女を好きなのか自問するのに一晩を費やしたくらいだった。
 体育座りをすれば、折り曲げた膝の裏に手を入れていたり。あれは結構腹筋がキツいのによくやる。だから太らないのか? 見習うべきところもあるのかもしれない。
 頭にハンガーをかぶって「勝手に頭が動く!」とケラケラ笑いながら何度も同じことをする。阿呆が露見するからやめてほしい。
 横を向いて寝ると、足の親指と人差し指で逆の足のアキレス腱を挟む癖がある。自分自身にやっている分には構わない。でも、隣で寝ているあたしの体の下に、グーにした手を突っ込んでくるのはやめてほしい。痛くて眠れたもんじゃない。
 修学旅行先の宿では、畳まれた布団群の中に頭から潜っていたことがあった。これにはさすがに驚いて引っ張り出した。かなり叱ったから、それ以降はやっていないと思う。
 まあ要は、ジャストフィットぴったり云々じゃなくて、ただの阿呆な行動なのだ。


 彼女曰わく――
「ぴったりすると気持ちがいいの。特に包まれてる感がたまらなく好き」
 そんでもって毎回あたしの下にいたりするが、これくらいの阿呆は許してあげている。
2012.8.17
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あとがき
 そういう単語や描写をせずにエロオチにするという挑戦。この話はセイコウしたでしょうか? というか大体の方がエロオチと予想してたことでしょう。余談ですが、「彼女とあたしの相性はぴったり」というオチだけは書きたくなかった。なぜなら吹郎は天の邪鬼だから!
 白状すると、ジャストフィットの半分くらいは吹郎の癖。
 挿絵はジグソーパズル。焦点合ってない状態で見ると、配色のせいでまさかの金魚化。えーと……暑い日はこれで涼をお取りくださいませ(笑)
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パズル完成図